木馬新聞

神戸のジャズ喫茶木馬の愛想も上々新聞です

大人のお洒落 / 西田明夫

 一世風靡したヴァン・ジャケット。その創業社長でいらっしゃった「石津謙介」さんの著書 「大人のお洒落」を持って新潟に出かける。
 今から二十八年ほど前のこと、 あるホテルの玄関で、タクシーの順番を待っていた私の前に一台のホンダ・シティが止まった。その国産のファミリー・カーから降りていらっしゃったのが 石津謙介さんだった。
 ポカンと口を開けているドア・ボーイにむかって「車を頼むよ」と一声かけて石津さんは中に入っていかれた。 自信にあふれた大人の姿を見る思いがした。 一流といわれるホテルの玄関に国産のファミリー・カーで乗りつける・・・。
 自分を表現する術をいくつも持っている人だからこそできるワザ。その時の出来事はこの本の中にも書かれている。
 今から三十年ほど前のこと、 石津さんの愛車は小豆色をしたベンツであったと記憶している。いつも青山通りに面した駐車場に停めてあったが、そのベンツはいつも泥だらけであった。ある日、 ヴァン・ジャケットの社員がそのベンツを綺麗に洗ったことがあったらしい。ま、社員がゴマを擂ったのだろうが、 「高級車をピカピカにして乗るのは粋じゃない」と、 その社員は石津さんに大目玉をくらったという話を聞いた憶えがある。
 「粋」とは何か?
 「色気」とは?
 「大人」とは?



●西田明夫氏のことー
         木馬マスター
オートマタの世界において国際的な作家。僕とは、ほぼ同年代だが、数年前に他界された。その彼から様々な教えをいただくが、その中で常々彼が口にするのが「作品には技術やセンスが優れていても「哲学」や「思想」がないと意味がない、」という言葉だった。文章も、簡潔、明解、知的です。