木馬新聞

神戸のジャズ喫茶木馬の愛想も上々新聞です

「舞台、おもしろ話」 佐渡裕

さて今回は舞台で起こったおもしろ話。といっても舞台での失敗談はあまりにもたくさんありすぎて、僕自身も根っからのポジティブシンキングマンなので、細かいことはほとんど覚えてません。とはいえ長年の音楽家人生を過ごしていると、一生忘れることのない記憶に残る出来事もあるわけですね。

 もう数年ほど前になりますが、フランスのリオンでフランス国立リオン管弦楽団とお正月のコンサートをやった時のことです。 我々は前日の大晦日にもコンサートをやっており、まあオーケストラのメンバーも、大半のお客様も、そしてもちろん私もそれぞれに前の夜は年越しなのでお酒が入っているという状況です…
 プログラムもアンコールになり、雰囲気も絶好調オーケストラのメンバーも悪乗りしてて、星条旗の帽子とかワイパーのついたサングラスなんかを付けて演奏するものもいました。
 曲目は弦楽器が指で弾くだけの曲、ヨハンシュトラウス作曲ピチカートポルカ。弦を弾いてポーン!懐かしいですよね。ポン菓子みたいな音がした瞬間でした。ホールのどこかでめちゃくちゃでかい音でポーーーン!!!そして天井から何やらキラキラした物がファーストバイオリンの上に落ちてきました。ダチョウ倶楽部なら「聞いてないよー」みたいな状況です!
 それがいかにもフランス人のおばさま、マリーアントワネットみたいな髪型の彼女の上に落ちてきました。しかも彼女の十五センチはあるかと思われる髪の毛から煙が立ち上がります。要するに、ちょっとした火事。
 でもさすがのフランス国立。すぐにおばさまの背後に座っていたおやじバイオリニストが自分の楽譜を手に取りおばさまの頭をパタパタやりだした。本番中のオーケストラが楽譜に書いてある音をポーンと鳴らして止まった時だったので、その現実を無視することも出来なかった。
 僕は思わず「サバ?」と聞くと(大丈夫?)彼女の答えは「サバ!」なのでそのまま曲を続け無事に終わりましたが、お客さんは全てが仕込まれた台本上の演出と思ったのかブラボーの嵐!

 嘘のようなほんとの話、いかがでしたか。

 

佐渡裕
京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。現在、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団、パリ管弦楽団、ベルリン・ドイツ交響交響楽団、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、その他欧州の一流オーケストラ毎年多数客ねている。