木馬新聞

神戸のジャズ喫茶木馬の愛想も上々新聞です

脳の悲しみ / 安田昌子

 放送作家の主な仕事は、会議に出ることだ。芸人顔負けの軽妙トークで会議をガンガン盛り上げる作家や、奇抜なアイデアで会議をさくさく発展させる作家がいるが、私は会議の後で、くよくよする作家だ。
「今日も、冴えた意見が言えなかったなぁ…」
帰る道すがら、ため息を百回つく。
先日、番組の取材で精神科医に会った。複数企業で産業医として、1万人のメンタルケアをしてきたという異色の精神科医だ。
その医師によると、人は「ダ行」を封印すると、前向きな性格になるという。人間には自分が口にする言葉で、行動を制御してしまう傾向があり、「だめ」「でも」「どうせ」こんなダ行の言葉を使わないようにすると、自己肯定感が持てるらしい。これには大いに膝を打った。実は私には、生き恥を晒していると感じた時に、最も極端な言葉「死にたい」と脳内で呟いてしまう、しょうもない癖がある。これを、底抜けに明るい言葉に置き換えれば、くよくよする性格が治るのではないか。そして私は辞書を漁り、ついに「死にたい」の対極、問答無用で能天気な気分にさせてくれそうな言葉を見つけ出した。
それは「ふんどし」。今、私の頭の中では毎日ふんどしがはためいている。

安田昌子
(放送作家・元木馬スタッフ)