木馬新聞

神戸のジャズ喫茶木馬の愛想も上々新聞です

冥王星への / 上海太郎

水・金・地・火・木・土・天・海冥・・・・・ 太陽の周囲を円軌道を描いてまわる太陽系の惑星達。
 水星と金星は宵の明星、明けの明星と呼ばれ日暮れ時、あるいは夜明け前にその輝く姿を見ることが出来ます。
 ドーナツのような輪を持つのが土星。一番大きな木星は直径が地球の十倍以上。 最も遠い冥王星は1978年12月、 海王星の軌道の内側に入ったものの 1999年再び最も遠い星となりました。
 さて、 中学1年生の時、私には片思いの女の子がおりました。名前は弘子ちゃん。クラスの違う私は声をかけることもおぼつきません。
 その弘子ちゃんの親友は高子ちゃんと言って身長178センチ、 体重100キログラムはあるという私の通う中学で最も体格のいい、さっぱりとした性格の明るい女の子でした。
 高子ちゃんの横にいる弘子ちゃんは、きゃしゃでほっそりとしていて、そして随分遠くにいるように見えました。
 ある日、宇宙大好き少年だった、私は科学雑誌の中に次のような記事を発見しました。 「冥王星に直接行こうとすれば47年かかる」。
 しかし木星経由だと25年ですむ。宇宙船は木星の引力で加速され、より早く行けるのだ。」
  一を聞いて十を知る利発な子供だった私はピンときました。 弘子ちゃんに直接行こうとすると47年かかる。だが高子ちゃん経由だと25年ですむ。 25年は短い時間ではありませんが、 47年に比べると半分ほどです。
 さっそく私は高子ちゃんに接近し、 そして思った以上にすばやくその引力圏に引きこまれました。
第一段階は大成功。 そこからは冥王星が以前より随分近く生き生きと輝いて見えました。
ここでもたもたしているわけには行かない、 わたしは次のステップの準備を始めました。しかし・・・・・・。
高子ちゃんの重力は強力でした。
 あかるくさっぱりと見えた性格は、 恋をした途端変貌し木星の表面は情の深いぬかるみと化しました。
 遠ざかろうとする私を彼女はつかみ振り回し泣き叫び地団太踏み、 その度に中学の運動場がゆれました。
 冥王星はそんな木星に嫌気が差し軌道を変え、私一人が木星の月になりました。
 そして私は例の科学雑誌の中に、 また新たな記事を発見したのです。
 前の記事への反論でした。
 「木星経由だとそこまでは早く着くが、そこから冥王星に向かう時、 反対に木星の重力に引っ張られ、結局余計に時間がかかる。」
 はよ言わんかい・・・・・。

 

上海太郎
劇作家、俳優、パントマイマー、演出家。

 

イラスト:深川和美