木馬新聞

神戸のジャズ喫茶木馬の愛想も上々新聞です

『私につきまとう二つの映画 / ルイ・マルとルルーシュ』

 フランスでは映画が「第7の芸術」と言われるほどに、芸術作品として取り組む意欲が強いのか、作家も監督も娯楽性よりも芸術色を重んじるようだ。それで時おり小難しいものや、とても難解なものに出くわし、突放された気分にされることもある。
 例えば、若い頃に観た映画でマリュグリット・デュラスの「インディア・ソング」。ロブ・グリエの「去年マリエンバートで」などはサン・ローランのファッションは楽しめたがそれ以外は突き放された。ところが何かしらその難解さに私は小気味いい曖昧さを覚えたものだから、なんどか観た。難解なものは難解であった。
デリケートでエスプリの利いた会話、シニカルな笑い、日常の悲哀や歓び、完結のないドラマというか、むしろ絶望的な終わり方、私のフランス映画はざっとこんなイメージである。
 で過去に観た映画の中から、音楽とともにいつまでも胸に焼きついている映画を二つだけ選んでみた。
 それは五十年代中頃に作られたルイ・マル監の「死刑台のエレベーター」だが、この映画はヌーベル・ヴァーグとジャズが切り離せないことを決定づけた作品だと私は思う。
 夜のシャンゼリゼを気だるくさまようジャンヌ・モローとマイルス・ディヴィスのトランペットで始まる冒頭のワンシーンにはため息がでた。
 映画全編に漂うジャズは、それまで私たちが耳にしてきたジャズ・スタイルとはまったく違うモダンでクール、しかも洗練された別の音楽世界であった
 この映画の音楽が、モダン・ジャズに対する世間の認識を変える大きな役割を果たしたと言ってもいいだろう。私のジャズへの入口もこの映画であった。
映像と音楽なら誰が取り上げてもおかしくないのが、クロード・ルルーシュ監督の「男と女」だろう。
 色彩と音楽を駆使したこの映画は、今でも色あせない。それと単なる映画の添え物としての音楽とは一線を画しいて、映像、セリフ、音楽が絶妙に溶け込んでいる。
 惹かれる場面は数多くあって、
*ドーヴィルの海岸、砂浜で遊ぶ子供たちとアンヌ、そこに到着したフォードGT40のパッシング・ライト。
*電報を受け取るや否や、モンテカルロからパリのアンヌの自宅へ、淡い予感に酔ったジャンの自問自答。
*シックなランチシーンでの部屋のオーダー。
*ロケ地撮影での立ち居振る舞いのなんとも美しいアヌク・エーメ。
 やはり一番惹かれたのが海岸を散歩する場面。まばゆい光の中シルエットだけの老人と犬が望遠で映し出され、それにジャコメッティの言葉を重ね合わせた二人の会話「芸術より人生を」と語るシーンは何度観ても粋で印象的だ。
 そして音楽、フランシス・レイのテーマ曲はあまりにも有名。だがアヌク・エーメが亡夫と共にブラジルで過ごした思い出のシーンをピエール・バルーが歌う「サンバ・サラヴァ」はとても素敵な曲だ。
 それは、ボサノバの生みの親たちへの敬意を歌ったもの。
ジョアン・ジルベルト、カルロス・ジョビン、バーデン・パウエル、 ヴィニシウ
ス・ヂ・モライス! 
 私は当時、このアーティストたちのレコードを何十枚も聴いていたからとても親しみ深かった。
 ピエールバルーがフランシス・レイとルルーシュとの出会いを作ったこと、ボサノヴァがヨーロッパに広まるきっかけを作ったことなど、ピエール・バルーはこの映画で大きな役割を果たした。
 しかし2016年12月に他界されたが、ピエール・バルーの音楽から感じる世界観は
私には、とても大きなものであった。
         (木馬マスター)
MOKUBA’S TAVERNの珈琲カップに記されている 「L’AMITIE」という詩は、ピエール・バルー氏によるもの。
「恋や別れの歌はたくさんあるのに 
友情を歌うことはあまりない
友情は美しい感情だ
長い旅のみちずれ   
はげまし 友情 
分かち合うことが希望のあかし・・・」



木馬新聞/第1版/2019年4月